Write to think

- ある題材について書くことは,それについて知る最良の手段である - (Gerald M. Weinberg)

読書録『博報堂デザインのブランディング』(永井一史)

「ブランドに一番大切なものは、「思い」。

 ブランディングとは、「思い」を「カタチ」にすること。」

 

 ここで言う「思い」は、ビジョン、魂、理念、理想、意思といった意味を含む。そして「その企業や商品が社会に存在する理由」である。

 だが「思い」は見えない。だから「カタチ」を与え、人から見えるようにしていく。存在を与え、存続しやすくする。それが、ブランディングだと言える。

 ブランディングは短期的なものではなく、「将来までずっと残るもの、いわば未来の価値をデザインしていくこと」でもある。

 では、「カタチ」とは何かというと、シンボルや言葉やビジュアルデザインなどだ。それらを効果的に組み合わせて使いながら、主体と客体の間に共通認識、アイデンティティを作り上げていく。

 さらには、例えば企業の場合、社員が企業のアイデンティティに共感し、自分自身のアイデンティティとも不可分になり、より強固なアイデンティティになっていくと、その企業は方向性や価値観にブレがなくなる。ブランドが企業という土壌において育っていくイメージだ。

 

 

「ブランドのカタチを決めるのはデザイナーではなく、ブランド自身だ。その企業や商品が最も本来的で、最も望ましい“必然のカタチ”にたどり着くことをアテンドするぐらいのスタンスがちょうどいい。」

 

 ブランドは見出すものなのだ。コピーライターが言葉を創造するのではなく発見するのと相似の関係にある。コピーライティングもブランドの本質に迫るプロセスを通るのだから、当然かもしれない。メタに見れば、ブランディングもコピーライティングもデザインの一種であり、それは対象の本質を鮮やかに描き出し、見る人・読む人に伝える技術なのだろう。

 

 

 さて次に、カタチのデザインに入る前に不可欠なのが「思考のデザイン」だ。

 

ブランディングにおける「思考のデザイン」とは、双方向の関係性の中からブランドの「思い」を導き出し、価値として規定するまでの道筋のことだ。」

 

 デザインしたいことの本質を発見するには、ただ机上で頭をひねってアイデアを出してもダメだ。本質を探求するプロセスをデザインしておくのが良い。それが思考をデザインするということだ。

 まずはシステマティックに情報を集める「インプット」から始まる。ここでシステマティックとは、五つの視点「歴史」「機能」「文化」「社会」「関係」のそれぞれについて、資料やヒアリングや現場の観察・体験から発見していくことだ。

 次は、集めた立体的な情報に基づき、ブランドの本質を見つけ、固有価値として規定する「プランニング」だ。5つの視点で得た情報を基に、連立方程式を解くように、本質を探していく。こうして見出した本質を固有の価値と規定してはじめて、カタチを与える「思い」が定まることになる。

 思考のデザインを着実に実践し、豊かなインプットに基づくプランニングをすることによって、「必然のカタチ」を発見する準備ができたことになる。

 

 

「ブランドは「人」だと考えています。その人が、付き合いたいと思える人か、信頼できる魅力的な人かどうか。そして何がその人を形成しているかが大切になってくる。」

 

 この観点は、ブランディングにおいて規定した企業や商品の固有の価値と、それに与えたカタチを検証するのに役に立つ。自社のブランドを社員やお客様や株主様などステークホルダーにイメージしてもらい、このブランドが好きだと思えるかどうか。信頼できるか。何かが足りないとすれば、それは何か。

 

 

 ブランディングは、その成否が見えにくい。だが商品ブランドの場合、ブランドはPOSデータに反映されなくてはいけない。「日々、一円、一銭売っているリアリティを持って」いなければならない。企業ブランドなら、例えば時価総額だ。

 ブランドは資産だ。未来に続いていく。揺るぎない「思い」を発見し、カタチを与えることで、守り、再創造を続けていくべきものである。